2019年11月28日、鹿児島市は市内の実験サルを扱う動物実験施設の職員1人が
Bウイルス病を発症したと発表しました。サルとの直接的な接触で感染したとみられ、
ヒトへのBウイルス感染は国内初となります。
また12月24日、鹿児島市による1例目の疫学調査の過程で、同じ実験サル取扱施設の
元従事者で2例目の患者が確認されたことを発表しました。
〇Bウイルス病って?
Bウイルスの原因ウイルスはヘルペスウイルス科αヘルペスウイルス亜科に属する
Macacine alphaherpesvirus1で、マカク属に分類されるサル(アカゲザル、ニホンザル、
カニクイザルなど)が保有しており、これらのサルの体液(唾液など)を浴びたりする
ことで、サルが保有するBウイルスに感染することがあります。
これをBウイルス病といいます。Bウイルス病は狂犬病などと同じく感染症法の4類感染症
に指定されています。Bウイルス病患者と診断した医師は、最寄りの保健所に直ちに届出を
行わなければなりません。
〇Bウイルス病の潜伏期間は?
潜伏期間は通常2〜5週間(早い場合2日)とされていますが、約10年の潜伏感染後、
再活性化により発症した事例も1例報告されています。
〇Bウイルス病に感染するとどのような症状が出ますか?
サルとの接触周囲の水疱性あるいは潰瘍性皮膚粘膜病変や発熱、接触部位の感覚異常、
麻痺等の症状がでます。重症例では神経障害が後遺症として残ります。感染後数年して
から発症することがまれにあります。
〇Bウイルス病はこれまでにどのくらい発生していますか?
米国アメリカ疾病管理予防センター(CDC:感染症対策の総合研究所)の報告によると、
ヒトのBウイルス病患者はこれまで50例報告されており、全て研究者またはサル飼育施設の
従業者です。冒頭で述べましたが、日本では2019年11月に初めて1例目の患者が発生しました。
〇ヒトへはどのようにして感染しますか?
Bウイルス病の原因ウイルスはマカク属サルが保有しています。
サルの唾液、糞便、尿、脳や脊髄などにウイルスが含まれます。これらのサルとの
接触(咬傷、擦過傷)やサルの体液に直接触れたり、かけられたりすることにより
感染します。サルとの直接的な接触がない場合は感染することはありません。また
本疾患の患者は発症した後に、外傷部、結膜、唾液からウイルスが分離されることが
報告されており、これまでヒトのBウイルス病患者の皮膚病変に触れたヒトがBウイルスに
感染した事例が報告されています。しかし、皮膚症状のない患者からのヒト-ヒト感染は
報告されていません。回復患者、安定期にある患者からのヒト-ヒト感染は起こらないと
考えられています。
〇サルからBウイルスに感染しないようにするためには?
マカク属サルを扱う際には、防護服を着用してください。
また感染したサルの体液がはねて眼に入り感染した事例も報告されていますので、
ゴーグルの着用も重要です。
〇もしサルに咬まれたり、引っ掻かれたりした場合にはどうすれば良いですか?
まず傷口をできる限り早く洗浄します。無治療の場合の致死率は70〜80%と
されていますが、Bウイルス病に効果が期待される治療薬があり、アシクロビル、
ガンシクロビルが有効です。サルを扱った後に、水疱性あるいは潰瘍性皮膚粘膜病変や
接触部位の感覚異常、麻痺等があった場合は、早めに病院を受診することが賢明です。
〇さいごに
近年の著しい人口増加と地球環境の変化により野生動物と人間社会の境界の消失を
もたらした結果、世界中で新しい感染症が次々と発生しており、そのほとんどは
人獣共通感染症です。人獣共通感染症の病原体は野生動物と共存していた微生物ですが、
ヒトの世界に入り込み重い感染症をひきおこすことが多くなっています。
(現在は新型コロナウイルスが人類にとって大変な脅威になっています。)
地球上の生態系の保全は、ヒトおよび動物の健康の両者が相まって初めて達成できます。
その実現と維持のためには、ヒトと動物の健康維持に向けた取り組みが必要です。
ヒト、動物、環境(生態系)の健康は相互に関連していてひとつであるという
One healthの考え方が今後非常に重要になっており、日本医師会と日本獣医師会は
連携してこれに取り組んでおります。
参考文献
(1) Cohen JI, et al. : Recommendation for prevention of and therapy for exposure to B virus. Clin Infect Dis 35:1191-203,2002
(2) Holmes GP, et al. : Guidelines for the prevention and treatment of B virus infectious in exposed persons. Clin Infect Dis 20:421-39,1995
(3) 竹田美文ほか編「エマージングディジーズ」近代出版,1999
(4) 村上一ほか編「人畜共通伝染病」近代出版, 1982