防ごう!カンピロバクター食中毒

2024年5月16日

 今回は動物の話があまり出てきません。
 獣医師といえば、動物に関わる仕事をしていると思うかもしれませんが、必ずしもそうではありません。保健所で食品衛生監視員として食中毒(疑いも含む)に関する仕事をしている獣医師からのお話をさせていただきます。
(保健所の食品衛生監視員のことは2018年5月30日のトピックス「動物に触らない獣医さんの仕事-食品衛生監視員-」でも紹介しているので、そちらも読んでいただけるとうれしいです。)

 カンピロバクター食中毒は日本国内で発生している細菌による食中毒の中で、近年、最も発生件数が多く、年間300件、患者数は約2,000人で推移しています。その名のとおり、カンピロバクターという細菌が原因ですが、カンピロバクターは、鶏、豚、牛などの家畜をはじめ、野生動物や皆さんといっしょに暮している犬、猫など愛玩動物のお腹の中にもいます。そのカンピロバクターがお肉などの食べ物を介してヒトに感染します。ヒト以外の動物に病原性を示すことはほとんどありませんが、ヒトに感染すると下痢、腹痛、発熱などの症状を引き起こします。また、感染から数週間後にギラン・バレー症候群を発症することがあります。ギラン・バレー症候群は手足の麻痺や顔面神経麻痺、呼吸困難を引き起こし、死亡する可能性もあります。

 どうしたらカンピロバクター食中毒を防ぐことができるかというと、お肉を十分に加熱(中心部を75℃以上で1分以上)することです。また、70℃3分、65℃15分などの条件で加熱すれば75℃1分と同等の効果があると分かっています。大事なことは「中心部が一定以上の温度を一定時間以上キープ」されていることで、表面だけだったり、温度が低かったり、時間が短かったりしてはいけません。「一定温度に達した直後のお肉(まだ安全に食べられない)」と「そのまま一定時間維持されたお肉(安全に食べられる)」は見た目では判断できないことも知られています。事業者の方々に対しては、お肉を加熱するときは、温度と時間を計り、しっかりと加熱するよう指導しています。

 防止対策は加熱という一見単純な調理方法ですが、先ほど書いたとおり、カンピロバクター食中毒発生件数、患者数は減っていません。そこには、様々な理由があります。
 まず、日本には生食文化があることです。新鮮な魚や卵と同じように考えて、「この鶏肉は新鮮だから生で食べて大丈夫!」という声を聞いたことがあるのですが、そんなことはありません。先ほど説明したとおり、カンピロバクターは鶏に元々います。また、カンピロバクターは微好気性菌という、十分な酸素にさらされると死んでいくという特徴があり、新鮮な鶏肉(十分な酸素にさらされてから時間が経っていない)ほどカンピロバクターがたくさんいるとも言えます。
 また、近年の低温調理ブームも一因です。たくさんの種類の低温調理器が販売されていて、家庭でも非常に身近なものになりました。インターネットには多くの低温調理のレシピが掲載されており、それを参考にご家庭で低温調理を楽しんでいる方も多いと思います。しかし、そこにはリスクも多く、使う低温調理器の性能、鍋などの大きさ、食材となるお肉の大きさなどの条件が変われば、必要な加熱温度、加熱時間が変わります。低温調理器の使用方法や、参考にするレシピの内容をよく確認し、十分な温度と時間で加熱することが大切です。

 そもそも、お肉がカンピロバクターに汚染されることを防げないか、と考える方もいらっしゃるかもしれません。過去の研究では、市販されている鶏レバー、砂肝は60%以上、鶏肉では100%がカンピロバクターに汚染されていると報告されています。この高い汚染率の背景には、鶏が暮らしていた農場自体が汚染されているということがあります。農場では生きた鶏の約30%がカンピロバクターに感染しているというデータがあるのですが、鶏は感染しても発症せずに元気なままのため、その感染率を下げることが困難です。これが、食鳥処理場で広がってしまうのですが、毎日何万~何十万羽と処理する中で、カンピロバクターの広がりを完全に防ぎきれないでいます。農場の汚染率を下げたり、食鳥処理場での広がりを防いたりできれば、鶏肉の汚染率が下がり、食中毒の発生も減らすことができると期待されているので、今後、有効な手段の確立が待たれます。

 

 最後にですが、食中毒対策はフードチェーン全体での取り組みが重要と言われています。フードチェーンとは農場から食卓までの食べ物の流れのことで、その各段階で対策することで全体の食中毒リスクが下がります。農場ではカンピロバクター汚染率を下げる、食肉処理場では汚染された鶏からのカンピロバクターの広がりを防ぐ、販売店ではお肉を衛生的に取り扱う、ご家庭や飲食店では十分に加熱する、といったように全ての段階でなにかしらの対策ができます。ご自身、ご家族の健康を守るため、食中毒予防にご協力お願いします。

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