西日本在住の50代の女性が、昨年夏、衰弱した野良猫を動物病院に連れて行こうとして咬まれ、その数日後に重症熱性血小板減少症候群(SFTS ; Severe fever with thrombocytopenia syndrome)を発症し、10日後に死亡していた、というニュースが今年の7月に報道され話題になりました。
SFTSはダニからうつることが知られていますが、この女性にはダニに咬まれた形跡がなかったことから、SFTSを発症した猫から感染した可能性が高いことが指摘されています。
また、この報道の3か月後にも、徳島県内で40代の男性が、飼っていた4歳の雑種の犬からSFTSに感染したことが発表されました。この男性は、発熱などの症状が出たものの、現在は回復しているとのことですが、ペットから人への感染が確認されたのは世界で初めてのことだそうです。
◇SFTSとはどのような病気でしょうか?
SFTSは2011年に中国の研究者らによって発表された新しいウイルスによるダニ媒介性感染症です。これまで中国以外にも韓国と日本で発生が報告されています。ヒトに感染すると、6日〜2週間程度の潜伏期間ののち、発熱、全身倦怠感、消化器症状が起こり、重症化すると死に至ることもあります。また、病名が示すように、出血を止める働きを持つ血小板が少なくなることにより、出血症状(歯肉出血、紫斑、下血)が起こることもあります。
日本では2013年に最初の感染例が報告されおり、以降、2017年11月1日までの間に、九州、四国、近畿地方などの西日本を中心に315人の患者発生が報告されています。そのうち60名の方が亡くなっており、致死率が高いことから(約20%)、感染症法の4類感染症に指定され、患者を診察した医師には保健所の届出が義務づけられています。
なお、ペットの場合は感染してもほとんど症状がでませんが、発症すると、ヒトの場合と同様に、発熱、食欲低下などが起こり、血液検査では、白血球数、血小板数の減少などの変化が見られます。
◇SFTSを媒介するダニとは?
SFTSを媒介するダニは、家庭内の食品、寝具などに生息する小さなダニとは異なり、山林や市街地などの草地に生息する大型のマダニです。マダニは堅い外皮に覆われており、成ダニの場合、吸血前で3-8mm、吸血後で10-20mm程度の大きさになります。春から秋にかけて盛んに活動し、野生動物や家庭で飼育されている犬や猫にも寄生します。SFTSは、通常ダニの吸血時に感染しますが、ウイルスを保有している動物の体液(血液、唾液など)からも感染する可能性があるため、人獣共通感染症(動物由来感染症)としての特徴を併せ持っています。今のところ蚊など、マダニ以外の吸血昆虫を介してうつることはないようです。
◇今後の対策は?
現在、SFTSは西日本を中心に発生していますが、徐々に発生地域が広がっています。これまで患者が報告された地域以外でもSFTSウイルスを保有するマダニや感染動物が見つかっていますので、SFTS患者の発生が確認されていない地域でも注意が必要です。
ヒトの場合
現在のところ、SFTSの有効な治療法は見つかっていません。SFTSから身を守るためには、病気の正しい知識を身につけることと同時に、適切な予防策を実施することが重要となります。マダニが発生する季節に山歩きや農作業などをする場合は、必ず長袖、長ズボン、帽子、手袋を着用し、できるだけ肌が露出しないよう服装に注意して下さい。虫除け剤の使用も補助的な効果があります。帰宅後は必ず入浴し、マダニに咬まれていないか確認して下さい。もしマダニに咬まれた場合は、数週間は体調の変化に注意し、発熱などの症状が見られたら医師の診察を受けて下さい。
飼育動物の場合
ヒトの場合と同様に、有効な治療法はありませんので予防が重要になります。犬の場合、マダニが活動する期間は、できるだけ草むらなどのマダニが生息する場所に近づけないよう心がけ、散歩のあとは毎回マダニのチェックを行って下さい。定期的なシャンプーや外部寄生虫駆除剤も役に立ちます。飼い猫の場合は、日頃から室内飼育を徹底し、交通事故防止や感染症予防の観点からも決して放し飼いをしないで下さい。どうしても室内飼育ができない猫には、皮膚に直接つける滴下式の外部寄生虫駆除剤が役に立ちます。マダニの適切な予防、駆除の方法については獣医師にご相談下さい。
◇さいごに
通常、SFTSは健康なペットを介してヒトへ感染することはありませんが、発症した犬、猫から感染した疑いがもたれている事例が確認されていますので、ペットにヒトの患者と同様の変化が見られた場合は、必ず獣医師に相談してください。
さらに詳しい情報が必要な方は下記のホームページをご参照下さい。
・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について(厚生労働省)