獣医療(動物医療)の歴史

2015年12月7日

 現在の動物医療は、犬、猫、うさぎ、などの小動物診療、
牛、馬、山羊、羊、鶏などの産業動物の診療、と多岐に渡っています。

 さて、昔の日本には動物を治療する人はいたのでしょうか?

 簡単ではありますが、過去の書を見ながら振り返ってみましょう。

 最も古い動物診療は日本最古の書、古事記に出てくる稲葉の白兎の話でしょう。
大国主命(おおくにぬしのみこと)は、毛皮をはがされたうさぎに対して
「蒲黄(がま)の花粉を敷きその上を寝転べば、おまえの体はきっと治るだろう。」
と指示しました。
神話の時代ですが、まさに動物医療(獣医師)第一号です。

  595年  聖徳太子は、待臣 橘猪弼(たちばなえのすけ)に高句麗から来た
      馬医術に長けた僧(恵慈)をつけ療馬法を学ばせました。(太子流療馬術)
      獣医学教育第一号です。

  701年  大宝律令の中に、馬医(うまくすし)という官位が出てきます。
      現在で言う大動物の獣医師です。牛馬の個体識別(烙印を押す)、疾病治療、
      屍体処分などの仕事をしています。

  907年  延喜式が制定された時、白馬で御殿の前を通る儀式が行われ、
      馬医が従っています。  

  982年  医方心が、丹波康頼(たんばのやすより)に書かれています。
      これは、随、唐の医書の抜粋であります。この中に、狂犬病の症状治療について
      記載されていますが、当時日本で発生していたかはわかりません。

  1467年  戦国時代には、戦陣に馬医を従えるようになりました。

  1505年  病馬覚書 上中下 3冊

  1512年  御随臣三上記には、療馬法の詳細、湯治、針、灸について記されています。

  1551年  馬医醍醐 12冊

  1573年       療馬図説

 古代から戦国時代までの獣医療は、ほぼ馬の治療の歴史であります。
そして江戸時代以降も馬の治療は重要視され、たくさんの書が発刊されています。
しかし、他の動物の書も少しずつ見られるようになりました。

   1616年       犬の書 小橋次郎右衛門 著
      熱病、腹腫、虫くだり或いは腹鳴、口中洗薬、眼病、息合(食欲不振)
      などの症状、治療について記されています。

  1659年       牛病書 井口十右衛門 著

  1685年  生類憐みの令 犬は手厚く保護され、犬医師の職制ができました。

  1756年       牛療治調法記 丁字屋九郎右衛門(ちょうじやくろうえもん) 著
       牛の鑑定法、鼓脹症、咳、熱中症について記されています。

 犬、牛の治療についての書が出てくるようになりました。
徳川綱吉の時代に生類憐みの令が発令され犬医師の職制ができましたが、殺生禁断、
畜犬保護の規定が厳しすぎて悪政のそしりを免れませんでした。その為、綱吉が亡くなると
この制度は廃止されてしまいました。

 明治時代以降は、鎖国もなくなり海外の牛、馬、羊の書が大量に入ってきます。
獣医療(動物医療)も国により組織化され、獣医学校で学ぶようになりました。
これは、酪農の急速な近代化で乳牛、肉牛が増加し家畜疾病と防疫の必要性が高まったため
です。
軍馬、使役牛の治療の時代から食の為の家畜治療の時代になって来ました。
しかし、第2次世界大戦終了まで、陸軍にも獣医部があり軍馬の疾病治療は大変重要でした。

現代、獣医師は産業動物としての牛、馬、豚、鶏などに加えて、コンパニオンアニマル
として犬、猫、うさぎ、鳥、エキゾチックアニマル、そして野生動物まで診るようになりました。

いつの世も、人と動物は常に共存し、お互いの存在を大切にし合ってきた歴史がわかります。

さらに現代。多くの獣医師が世に生まれ、それを必要とする人と動物のためにも、
私たち獣医師は日々、研鑽し向上していかねばなりませんね。

参考文献
 獣医学史  中村 洋吉 著  1980

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