「ネコノミクス」ということばを聞いたことがありますか?
空前のネコブームによる経済効果を、
安倍晋三首相が提唱した「アベノミクス」をもじって、いつの間にか広まった流行語です。
今や、国内の猫の飼育頭数は犬の飼育頭数を上回り、
その種類も一昔前ではあまり聞いたことのない純血種が世に溢れてきました。
では、なぜ、今ネコなのでしょうか?
犬と猫の飼育頭数が逆転したとは言え、実際には猫の飼育頭数はここ数年、
横ばいに推移していますので、むしろ犬の飼育頭数が減少したことによる現象と言えます。
その理由としては、どうやら少子高齢化社会と住宅事情の変化が背景にあるようです。
猫は、散歩の必要がなく、犬に比べて世話に手間がかからないので、
高齢者や一人暮らしの世帯でも手軽に飼うことができます。
また最近では、勤労者世帯を中心に人口が都市部に集中して
マンション生活の世帯が増加していることから、鳴き声による騒音の心配が
より少ない猫に関心が寄せられるようになったのではないかと推察されています。
このように、猫ブームは今後もしばらく続くと予想されますが、
近ごろ雑種の猫は、不妊・去勢手術や室内飼育が定着してきたこともあって、
以前ほど容易に手に入れることができなくなりました。
猫をペットショップやブリーダーから購入する場合は、基本的に純血種から
選ぶことになりますが、純血種は品種特有の遺伝性疾患を持っていることがあります。
猫の遺伝性疾患は犬ほど多くはありませんが、現在300種類以上が知られています。
これらの病気は、無秩序な交配が繰り返されることによって引き起こされたものですが、
近年、いくつかの遺伝性疾患について遺伝子検査が利用できるようになりました。
ペットの遺伝性疾患は、遺伝子検査を積極的に取り入れることによって
確実に減らすことができますので、今後の普及が期待されています。
そこで今回は、国内の大手ペット損害保険会社が2019年に発表した人気猫種
ランキングベスト10をもとに、それぞれの品種ごとに起こりやすい遺伝性疾患を
リストアップし、そのなかから代表的な遺伝性疾患についてかんたんに解説します。
《人気猫種ランキングベスト10と起こりやすい遺伝性疾患》
1.スコティッシュフォールド
骨軟骨異形成症、多発性囊胞腎症、肥大型心筋症
2.アメリカンショートヘアー
肥大型心筋症、多発性囊胞腎症
3.混血猫(雑種)
情報なし
4.マンチカン
骨軟骨異形成症、多発性囊胞腎症、肥大型心筋症
5.ブリティッシュショートヘアー
肥大型心筋症、多発性囊胞腎症
6.ノルウェージャンフォレストキャット
グリコーゲン貯蔵病(糖原病)、ピルビン酸キナーゼ欠損症、
進行性網膜萎縮症
7.ベンガル
ピルビン酸キナーゼ欠損症、進行性網膜萎縮症
8.ラグドール
肥大型心筋症、進行性網膜萎縮症、ピルビン酸キナーゼ欠損症、
ムコ多糖症
9.ロシアンブルー
情報なし
10.メインクーン
肥大型心筋症、股関節形成不全、ピルビン酸キナーゼ欠損症、
進行性網膜萎縮症、脊髄性筋萎縮症
《猫の代表的な遺伝性疾患》
◇多発性囊胞腎症
腎臓に多数の囊胞(液体が入った袋)が形成される病気です。初期のうちは
無症状のまま長期間経過し、多くが4歳以上で発症します。囊胞の形成により
周囲の圧迫を受けた腎実質に線維化が起こり、やがて腎不全になります。
好発品種:ペルシャ系長毛種、アメリカンショートヘアー、スコティッシュフォールド、
マンチカン、日本雑種猫など
◇肥大型心筋症
左心室肥大によってうっ血性心不全を引き起こす病気です。心雑音だけで生
涯無症状の猫もいますが、肺に水がたまって呼吸不全が起こったり(肺水腫)、
血栓症で後肢が麻痺することもあり、そのようなケースでは死亡率が高くなります。
好発品種:メインクーン、ラグドール、スコティッシュフォールド、マンチカン、
アメリカンショートヘアー、ペルシャ、日本雑種猫など
◇骨軟骨異形成症
主に四肢の関節に骨組織の増殖が起こる病気で、手根部(手首)や足根部(かかと)
に骨瘤(こつりゅう)と呼ばれる硬い骨のかたまりができることがあります。
骨瘤ができないケースもありますが、いずれも進行すると関節の動きに支障をきたし、
慢性的な関節炎の原因になります。
好発品種:スコティッシュフォールド、マンチカン、アメリカンカール、ヒマラヤン、
ペルシャなどで、湾曲した小さな耳(折れ耳)、短い足、
つぶれた鼻の猫で発症します。
◇ピルビン酸キナーゼ欠損症
ピルビン酸キナーゼという酵素が不足することによって赤血球が破壊され、
貧血が起こる病気です。生後2〜3か月齢で貧血を発症し、多くの猫が4歳くらい
までに死亡します。
好発品種:アビシニアン、ソマリ、シンガプーラ、
ノルウェージャンフォレストキャット、ベンガル、メインクーン、
ラグドール、サイベリアンなど
◇進行性網膜萎縮症
眼の奥にある網膜が変性、萎縮することによって視力の低下が起こり、その後も
徐々に進行して失明にいたる病気です。猫ではまれな病気とされていますが、
栄養性の網膜変性や、感染性の網膜炎でも同様の症状が起こることがあります。
好発品種:アビシニアン、ソマリ、ペルシャ、シャム、ベンガル、ラグドール、
メインクーン、オシキャット、ノルウェージャンフォレストキャット、
オリエンタルショートヘアー、コーニッシュレックスなど
*ここで紹介した5つの病気は、すべて遺伝子検査が利用できます。