猫の慢性腎臓病について知っておきたい最新情報をご紹介します。
1.早期発見に役立つ新しい血液検査 … S D M A
猫の慢性腎臓病は、数か月から数年の経過でゆっくり進行し、病気が始まっても
しばらくの間は症状はほとんどみられません。また、この期間に血液や尿の検査をしても
多くの場合異常は出てきません。腎臓の働きにはもともと余裕があるため、
ある程度病気が進行しないと症状や検査の異常が出にくいのです。
以前から慢性腎臓病の早期診断ができる検査が望まれていましたが、
最近、S D M A(対称性ジメチルアルギニン)という血液検査の新しい項目が
実用化されるようになりました。この検査は腎臓が血液中の老廃物をろ過し、
尿を生成する働きをみるものですが、同じ働きを調べる既存のクレアチニンという
血液検査項目よりも通常早い段階で異常を検出することができます。
また、クレアチニンは猫の筋肉量によって値が変動するため、
高齢の猫や痩せた猫では低く出る傾向がありますが、S D M Aは筋肉量による影響を
受けません。
これまで行われていた血液検査にS D M Aの項目を追加することで、
慢性腎臓病の診断が今までより早く正確にできるようになり、早めに病気の対策を
立てられるようになります。
2.進行を抑える新しい薬 … ベラプロストナトリウム
慢性腎臓病に新しく使われるようになったこの薬はベラプロストナトリウムという
成分の内服薬で、慢性腎臓病の進行を抑え症状を改善する効果があります。
現在、主に使われている慢性腎臓病薬の効能は、蛋白尿や尿毒症の抑制で、
本剤のように病気の進行の抑制を効能に挙げた薬はこれまでありませんでした。
慢性腎臓病は、腎臓に炎症、血流減少、低酸素の状態が起こり、さらに線維化(注)と
呼ばれる現象が生じ、これらが互いに悪影響を及ぼし合って進行していきます。
本剤は炎症をしずめ血流を回復する働きを持ち、低酸素と線維化を抑え慢性腎臓病の
進行を抑制します。同時に、病気によって低下した元気と食欲を改善し、
体重減少を抑える働きもあります。
本剤により慢性腎臓病を根治することはできませんが、猫のQ O L(生活の質)を改善する
ことは期待できますので、元気な体調をできるだけ長く保つことを目標に、
根気よく投薬を続けていくと良いでしょう。
すでに別な腎臓病の薬をやっている場合は、切り替えが良いとは一概に言えませんので、
獣医師によく相談してみましょう。
(注)線維化とは、内臓などの組織を支えて結びつけている結合組織と呼ばれる部分が異常に増殖すること。しばしば結合組織が正常な組織にとって代わり機能障害を起こす。
3.猫に本疾患が多発する原因 … A I M
猫は、ほかの動物に比べて慢性腎臓病が多いことで知られています。
なぜ猫にはこの病気が多いのでしょうか。
最近、その原因を調べた研究結果が報告されました。
猫が慢性腎臓病になるきっかけとして急性腎障害が挙げられます。これは、尿路結石、
ウイルスや細菌の感染、植物や薬物による中毒、重い脱水などによって起こり、
発症後短期間で回復しないとそのまま慢性腎臓病に移行してしまうことが多い病気です。
この研究では、A I Mという血液中の蛋白質が急性腎障害から回復するのに重要な働きを
していて、その際、人やマウスではA I Mが十分な働きをするのに対し、
猫では全然働きをしないことが明らかにされました。
急性腎障害では、腎臓内の尿の通り道に死んだ細胞が集まってできたデブリと呼ばれる
固まりが詰まり、尿の流れを悪くして腎臓にダメージを与えます。A I Mはこのデブリに
付着し、その吸収を促進する働きがあります。
猫のA I Mは、人やマウスより血液中の量は多いものの、抗体という蛋白質に強く結合して
いて、急性腎障害になった場合でも抗体から離れることができず、
デブリに付着することができません。その結果、猫ではデブリの吸収がうまく進まず、
急性腎障害からの回復が長引き慢性腎臓病になりやすいというわけです。
今後、猫のA I Mの研究がさらに進み、急性腎障害の治療薬や慢性腎臓病への移行を予防する
薬が開発されれば、近い将来、猫の慢性腎臓病が今よりずっと少なくなる日が来るかもしれ
ません。