猫の腎臓は他の動物に比べてネフロンという血液から尿を生成する構造物が少なく、そのため腎臓に負担がかかりやすく腎臓病を起こしやすい動物であるということをみなさんはご存知でしょうか?
猫の慢性腎臓病はさまざまな年齢で発症しますが、高齢猫のほとんどは慢性腎臓病を患っていると言っても過言ではないでしょう。
さて、その原因となるのは細菌やウイルスの感染によるもの、尿石症などによる尿路閉塞、薬物・毒物による中毒、心臓病などによる腎臓への血流量の低下、外傷など様々です。一度そのような原因から腎臓がダメージを受けると、現在の獣医療では回復させることは難しく、体の中で不要になった老廃物や毒素を尿中に排泄できなくなったり、尿を濃縮したり希釈したりする力が弱くなったりと腎臓の機能が低下してきます。腎臓の機能には他にも赤血球を生成するホルモンを分泌していたり、ナトリウムやカリウムといったイオンのバランスを保ったりする働きもあります。これらの機能が慢性的に低下して様々な症状を発症します。初期にはたくさん水を飲み、尿量も増えて薄い尿が見られます。そして体重減少、食欲不振、嘔吐、便秘、貧血などが認められ、末期には沈鬱、痙攣発作などの症状も示し余命わずかと診断されることになります。
猫の慢性腎臓病は、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)が推奨している診断基準で4つのステージに分類されています。ステージ1では血液検査に異常がなく、尿の濃さを確認する尿比重が低下したり腎臓の構造に異常が出たりします。また、猫では多くはないのですが、尿蛋白が検出されることもあります。このようにステージ1の診断は血液検査だけでは非常に難しいのですが、血液検査や尿検査、超音波検査などを繰り返し行うことが重要です。ステージ2になると血液検査でも異常値が出てきますが、この頃になると腎臓の約3分の2が機能を失っていると言われています。ステージ1や2では症状を伴わないまたは軽度な症状でご家族が気が付かないことが多く、ステージ3に進行して様々な症状で来院されるケースもとても多く見受けられます。
そして一番重症度の高いステージ4では、平均しておよそ3ヶ月しか余命がないというデータがあります。手遅れにならないためにも、早期発見・早期治療をすることでその進行を抑えることが非常に大切になります。
繰り返しになりますが、そのためには、SDMA(従来の検査よりも高感度と報告されている)を含めた血液検査、尿検査、血圧測定、画像診断(レントゲン検査や超音波検査)などを定期的に行い、もし腎臓病の疑いがあれば先ほど述べたIRISのステージに沿って治療を行うことが大切です。治療では最近血中リン濃度を上昇させない治療が注目されています。血中のリン濃度が上昇すると腎臓病の進行は早くなり寿命が短くなってしまうからです。そのために血中リン濃度が上昇する前に先行して上昇するFGF-23という物質を血液検査で測定することで、血中リン濃度をコントロールする治療(例えば腎臓病処方食に変更したり、食事中のリンを吸着する薬やサプリメントの投与などがそうですが)を血中リン濃度が今正常であっても積極的に行うかどうか決定することができます。
慢性腎臓病のケアーは症状が出てからでは遅いかもしれません。
一緒に過ごす時間を少しでも長くするために、かかりつけの先生と健康診断の時期などについてよく相談されると良いでしょう。