犬が流産などを繰り返す感染症「イヌブルセラ症」の集団感染がここ数年、各地の動物関連施設で相次いでいます。
国立感染症研究所(東京都新宿区)によると、集団感染はこれまでに静岡、沖縄、大阪、愛知の各府県で報告されていました。昨年大阪では繁殖業者のもとで大量の犬に感染が認められ、業者が犬の所有権を放棄したため、大阪府により139頭が安楽死処分となりました。この処分に愛護団体などが反対したことで注目を集めました。
人への感染も99年以降9件明らかになっています。今年8月には、名古屋市のペットショップで死産した犬の赤ちゃんを2人が素手で触って感染し、うち1人が入院しました。
そして新たに本年10月に、東京・千葉の動物取扱業者の所有する犬18頭に陽性反応が出ました。徐々に広がりを見せているようで、心配されます。
犬ブルセラ症はブルセラキャニス(Brucella.canis)という細菌に感染して起こる人獣共通感染症です。ブルセラキャニスの他にも人への感染をおこすブルセラ属の細菌は次のようなものが知られています。
ブルセラアボルティス(Brucella.abortus) 牛から感染
ブルセラメリテンシス(Brucella.melitensis)ヤギ、羊から感染
ブルセラスイス( Brucella.suis) 豚から感染
犬ブルセラ症は国内の犬の5%程度に感染歴があるとされますが、犬の感染については報告義務がなく実態は不明です。感染力は弱く、通常の生活で感染することはまれです。特に注意を必要とするのは繁殖をおこなう場合ですが、犬同士の通常の接触程度で感染することはほとんどありません。
感染しても犬が症状を示すことは少なく、オスでは精巣炎、メスでは流産をみとめることがあります。
人への感染はイヌの流産胎仔や体液等との接触などにより起こります。 通常の生活で感染することはまれですが、 感染する危険性が高いのは犬の出産や治療に従事する動物繁殖業者・獣医師などです。 人から人へ感染することはないと言われています。
人に感染した場合は発熱や筋肉痛などの風邪のような症状を示しますが、ブルセラキャニスはブルセラ属のなかでは病原性は弱く、重症となることはまれとされています。
それでも体力の低下した人や、高齢者、幼小児が感染して症状が重くなることも考えられます。人の医療面では、医師がこの病気に対する知識を持っていないために、適切な治療を受けることができずに治療が長期に及んだ例もあるようです。
日常的には以下のようなことについて注意しましょう。
・犬と接触した後は、石鹸などで手を洗う。
・犬が流産した場合には流産胎仔や体液には、手袋をするなどして直接手で触らない。
・犬の尿などの汚物には、直接手で触らないようにする。
・集団飼育施設で犬を導入する場合には、一時隔離するとともに健康状態を確認する。