犬の僧帽弁閉鎖不全症

2024年2月8日

 年のせい?いいえ、心臓弁膜症かも。テレビCMで聞いたフレーズですが、動物病院でもよく弁膜症の子を診察します。代表的なものは犬の僧帽弁閉鎖不全症です。
 心臓には「右心房・右心室・左心房・左心室」の4つのお部屋があり、それぞれのお部屋の中を血液が一方通行で流れています。血液の逆流を防ぐために、それぞれのお部屋から血液が流れ出る場所には弁があります。
僧帽弁閉鎖不全症はこのうち左心房と左心室の間にある僧帽弁の締まりが悪くなって血液が逆流する病気です。僧帽弁の締まりが悪くなってしまう原因は完全には解明されていませんが、加齢に伴って僧帽弁に「粘液腫様変性」という変化が生じて変形していくこと、僧帽弁を支えている腱索という組織が伸びてしまって僧帽弁の閉じる位置が変化してしまうこと、などが考えられています。
 病気が進行すると血液の逆流量が増えてしまい、心臓の中に溜まった血液が心臓を押し広げて心臓が大きくなっていきます。ある程度までは溜まった血液を送り出すように体が頑張るのですが、さらに進行すると左心房に溜まった血液が肺の血管から滲みだしてしまいます。この状態を肺水腫といいます。肺水腫になると呼吸はかなり苦しくなり、治療が遅れると亡くなってしまうこともあります。
 治療には外科治療と内科治療があります。

 外科治療は、広がった弁を縫い、伸びてしまった腱索を縫合糸で修復するなどして元の状態に近くなるような処置をします。限られた施設と経験を積んだ専門医しか実施できず治療費は高額になりますが、完治する可能性があるため、現状はファーストチョイスではありませんが、治療の選択肢の一つになっています。

 内科治療は、以下のように病状をステージ分類し、そのステージに合わせて投薬の組み合わせを変えながら、症状の緩和と病状の進行を抑えていきます。


ステージA: 心疾患のリスクが高い犬種(チワワ、キャバリアなど)が分類。
       心臓の状態に異常は認められず、症状はない。
ステージB1:聴診で心雑音が聞こえるようになる。
       心臓は大きくなっておらず、症状はないことが多い。
ステージB2:心雑音が大きくなってくる。
       心臓が大きくなってきて、症状はないか軽度(疲れやすい、咳をするなど)
ステージC: 心雑音、心拡大が進行し、肺水腫が発症する。
       過去に肺水腫になった症例も含まれる。
ステージD: 病態はさらに進行し、薬を飲んでもコントロールがとれない状態。
       肺水腫や失神など症状が出て、亡くなってしまう。


 どのステージにどの薬を使っていくかは獣医さんによって意見の分かれるところではありますが、共通しているところはステージB2で投薬治療を開始する、ということです。
 ステージB2の段階ではまだ症状はない(もしくは気づきにくい)ことが多いのですが、この段階からお薬を始めたほうが元気な状態を長くすることができます。
 特に高齢の子は動物病院で定期的に聴診をしてもらい、心雑音が出てくるようなら心エコー検査やX線検査をして、投薬が必要な状態になっていないかを定期的にチェックしてもらいましょう。

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