我が家のペットが「がん」と診断されました

2022年11月28日

今の時代ペットも大切な家族の一員であり、毎日を共に過ごすパートナーだということは説明するまでもありません。そんなペットも人と同じくいつしか歳をとっていきます。そんなある日、体の異変に気がつき動物病院を受診した際、検査の結果がんと診断されることがあるかもしれません。そのような状況になったときの参考に、がん治療についていくつかのトピックに分けてご紹介します。

 

◇がんとはどんな病気?
 人や犬猫の身体は数十兆個の細胞で構成されています。これらの細胞は日々様々な仕事をすることで生体機能を維持しており、必要に応じて増殖することで健康な身体を維持しています。この細胞の増殖は様々な仕組みにより制御されているのですが、まれにこの制御機構に引っ掛からず無秩序に増殖してしまう細胞が出現します。これが腫瘍細胞です。この腫瘍細胞のうち正常組織との境界を超え浸潤するように増殖していく場合、あるいは他の臓器へと転移し増殖を続ける場合をがん=悪性腫瘍と呼んでいます。このような異常な細胞が正常組織を犯しながら増え続けることにより、いつも通りの生活が送れなくなってしまったり生命機能に異常をきたし死に至ることになります。

 

◇がんを治すことはできるのか
 これはがん治療の目的を決定する際に最も重要なポイントになります。がんが治るということは即ち体の中のがん細胞がゼロになる(あるいはそれに近い状況で生涯留まる)ことを意味します。多くは転移が成立していない状況で外科手術によりがん細胞を全て取り除くことができれば達成されることになります。このがんを治すことを目指す治療を根治的治療と言います。根治的治療の可否はがんの種類や発生状況、ステージに大きく影響され、達成できるのであればある程度の治療侵襲は許容できることが多いです。一方、すでに転移が成立している場合や手術で全てのがんを取り切ることができない場合は反対に治すことは途端に難しくなります。この場合がんが身体から消えることはありませんが、がんと共存していくためにできる治療つまり緩和的治療を行っていくことになります。具体的にはがん細胞の数を減らしたり、がんの影響により発生した症状を緩和することが目的となります。

 

◇どのように治療方針を決めればいいのか
 動物病院ではがんの特徴や挙動、発生部位、罹患した動物の全身状態、性格、家庭での飼育状況、獣医師の力量、病院の医療設備、飼い主さんの看護力や経済力など様々な要因を総合的に考えて治療選択肢を提案します。そこに飼い主さん自身の希望を加えてプランを立てていくことになります。治療方針を決定していく中でどの選択肢が良くて悪いというのは考え方によって異なるため正解はありません。判断をする際に考えて頂きたい内容の一部を参考としてあげておきます。

① 治すことのできるがんなのか
根治的治療で治すことができるのであればそれに越したことはありません。一度チャンスを逃してしまうと根治できる可能性がなくなってしまうケースも多々あり、緩和的治療にしても治療が長引くと必然的に動物が負担に感じる期間も費用も嵩むことになります。ただし様々な要因で根治的治療が実施できない場合があります。

② どれくらいの来院頻度が必要で医療費がかかるのか
自分の家族構成や仕事の休みの日程、また治療を受ける動物病院への通院時間なども大きく関わってきます。また高度医療を受ける場合はかかる医療費も高額になるケースが多いです。手術や放射線治療などまとまった費用がかかるような場合だけでなく、その後の経過管理にも費用が継続して発生するかどうかも考えなくてはなりません。

③ 現在の痛みや症状と今後起こりうる症状や事象
がんの発生によりペット自身がどのような思いをしているのかを考えることはとても大切です。必ずしも直接痛みや不快感を訴えてくるわけではなく、飼い主さんが正しく認識できていないケースは少なくありません。またこの先起こるかもしれない状況をある程度理解しておくことも大切で治療の必要性の解釈に関わってきます。

④ それぞれの治療によって得られる利点と欠点
それぞれの治療の目的や利点と欠点を説明してもらうといいでしょう。その治療を選んだ際の治療効果や来院頻度、医療費、合併症の有無、治療薬の副作用、麻酔リスクなどが判断基準になることが多いです。

⑤ 主治医との信頼関係が築けるか
自分のペットががんと宣告されたとき、動揺して主治医の話が全く耳に入らなかったりすることは少なくありません。そんな時は日を改め家族と共に再度説明をしてもらったりして、疑問に思うことがあればなるべく解決しておくことをお勧めします。一般的にがん治療は経過が長くなることも多く、また治らず最終的には死にいたる疾患が多いからこそ主治医との信頼関係が大切になってきます。セカンドオピニオンを受けることも選択肢の一つです。

 

◇がんの三大治療
 がんの代表的な治療方法であり主体となってくるのが外科療法、化学療法、放射線療法の3つです。実際はこれら治療を単独あるいは組み合わせて実施するのに加え、痛みや症状に対しての治療を併用していくことが多いです。

① 外科療法
手術で腫瘍を切除することで腫瘍を身体から取り除きます。腫瘍の拡がりによっては見かけ以上に広範囲を切除しなくてはいけない場合や、発生している部位の関係で完全に切除しきれないような場合もあります。がんを根治させる唯一の方法といっても過言ではなく、身体への侵襲やリスク等は伴いますが手術の侵襲に応じた鎮痛処置が施されることは当然となっています。また緩和的治療の一貫で症状を緩和させる目的やがんの予防目的で外科療法が実施されることもあります。

② 化学療法
いわゆる抗がん剤を用いた治療です。薬の力でがん細胞を死滅させたりがんの成長に必要な機能を阻害することでがんの増大を抑えたり転移を抑制したりします。全身投与が一般的なため、手術で取りきれない腫瘍や全身へと広がった腫瘍に有効です。また血液がんなど一部のがんの種類によっては抗がん剤の感受性が高く、化学療法が第一選択肢になるものもあります。副作用は使用する抗がん剤の種類や容量によっても異なるため主治医から説明をよく聞いておく必要があります。

③ 放射線療法
がん組織に放射線を複数回当てることでがん細胞を死滅させ縮小させる治療法です。外科療法と異なりメスを入れることなくがんを縮小させることができるため、発生部位的に切除が難しい頭頸部腫瘍や脳腫瘍などで適応されることが多いです。また外科切除後の再発を防止するため、残存した腫瘍細胞を目標に照射されることもあります。照射ごとに全身麻酔が必要であり、照射から一定時間経過後に放射線特有の症状が副作用として認められることがあります。また放射線療法を実施できる医療施設が少ないため、通常は専門医の受診が必要になることが多いです。

会員ページログイン

ID・パスワード入手方法は会報をチェック!

  • 女性獣医師応援ポータルサイト

獣医師会について

活動案内

獣医師の仕事

ペット関連情報

野生動物関連情報

入会案内