国内未発生の家畜伝染病が日本に近づいています

2024年2月8日

 近年、日本国内で多発し、畜産に大きな被害をもたらしている家畜の伝染性疾病としては、高病原性鳥インフルエンザと豚熱があげられます。
 高病原性鳥インフルエンザは、令和4年11月から翌5年の4月までに84事例が確認され、約1,771万羽の家きん(鶏、あひる、うずら等の家畜として飼育されている鳥)が殺処分されました。
 特に採卵鶏での発生が多く、鶏卵の販売価格が高騰したエッグショックが記憶に新しいのではないかと思います。
 令和5年度も埼玉県の1事例を含む6事例が確認され、約59万羽の鶏が殺処分されており、更なる発生が懸念されています(令和6年1月16日現在)。
 また、豚熱は平成30年9月に国内26年ぶりに養豚場で発生が確認され、平成30年9月から令和5年8月の佐賀県での発生までに国内89事例、約36.8万頭の豚が殺処分されました。この間に、埼玉県でも5事例発生し、約7,600頭が殺処分されました。
 さらに、野生いのししにも感染が拡大しています。埼玉県内でも野生いのししから継続的に豚熱ウイルスが確認されています。

 これらの疾病の発生予防・まん延防止対策も重要ですが、他にも最近になり、国内未発生で国内への侵入がより危惧されている疾病があります。今回はそのうち2疾病を御紹介します。

【アフリカ豚熱】(豚熱と名前は似ているが、別の疾病)
・病原体はアフリカ豚熱ウイルス。環境耐性があり、食肉・死体等の中でも長期に感染性を保持する。
・豚、いのししに感染し、多様な症状を示す。
・甚急性では突然死、急性では発熱や全身性の出血病変等が見られ、致死率が非常に高い。
 (豚熱と酷似しているが、病原性は強い傾向にある)
・ダニによる媒介、患畜や汚染物品等との接触等により感染する。
・有効なワクチンや治療法がない。
・家畜伝染病予防法において「家畜伝染病」に指定され、患畜・疑似患畜の速やかな届出とと殺が義務
 付けられている。
・野生いのししの感染確認でも、状況によっては農場の豚の予防的殺処分の対象になる。
・もともとはアフリカのイボイノシシ等野生生物の感染症であったが、ヨーロッパ等に感染が拡がり、
 平成30年には中国で発生が確認された。
・その後、アジア各国にも感染が拡がり、韓国では令和元年に初めて発生が確認されて以降、豚、野生いのししでの発生が断続的に確認されている。アジアでは日本と台湾だけが未発生であり、周辺国からの日本への侵入リスクが高まっている。
・万が一、感染した豚等の肉を食べても人間には感染しない。

【ランピースキン病】
・病原体はランピースキン病ウイルス。
・牛、水牛に感染し、皮膚の結節や水腫、発熱、乳量の減少、脚の腫れ、跛行等を示す。
・特に、泌乳ピーク期の乳牛や子牛で症状が重く、生産性低下・経済的被害が大きい、死亡率は1~5% 。
・蚊、ハエ、ダニ等による媒介、患畜や汚染物品等との接触等によって感染する。
・有効な治療法はなく、海外ではワクチンの接種、ウイルスを媒介する吸血昆虫の駆除、発生農場で飼育
 されている牛の殺処分、周辺農場の牛の移動禁止等が行われている。
・日本では、現在のところワクチンは未承認。
・家畜伝染病予防法において「届出伝染病」に指定されている。
・もともとはアフリカ等で確認されていたが、近年、中東、ヨーロッパに感染が拡大し、令和元年以降
 アジアでも発生が確認されるようになった。
・韓国では令和5年10月に初めての発生があり、その後、韓国ほぼ全土に感染が拡がり、11月28日
 までに107事例が確認された。
・緬山羊には感染しない。
・万が一、感染した牛等の肉を食べても人間には感染しない。

 新型コロナウイルス感染症が5類感染症になり、国内、国外を含め、ヒト・モノの行き来が回復してきています。インバウンド消費の増加は国産牛肉等の消費拡大等プラスの面も多いですが、感染症の国内侵入リスクの増加というマイナスの面もあります。
 海外旅行に行かれた場合、海外から肉や肉製品を持ち帰らないでください。不正に持ち込んだ場合、処罰の対象となります。お土産として輸送する場合も同じです。実際に、海外からの渡航客により不正に持ち込まれ、動物検疫所で没収された肉や肉製品からアフリカ豚熱ウイルスが確認されています。
 また、海外で動物に触れた方、日本国内で動物に触れる予定のある方は、日本到着時に空港等の動物検疫カウンターにお申し出ください(動物検疫所の判断により、衣服、所持品の消毒等にご協力いただく場合があります)。
 日本の安全、安心、そして美味しい畜産物を守るため、海外からの家畜の伝染性疾病の侵入防止に御協力をお願いいたします。

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