人畜共通感染症としての日本脳炎について

2009年6月24日


○日本脳炎とは

多くの人は日本脳炎という病気の名前は聞いた事があるでしょう。そしてまた殆んどの人は子どもの時に痛い予防注射を受けた経験があるはずです。実際2004年までは3才~9才にかけて2期に分けた定期予防注射が実施されてきました。そのおかげで日本での日本脳炎の発生は1992年以後は毎年10人以下です。しかし主にアジアを中心として世界的には毎年3~4万人の患者が発生して1万人以上が死亡しているこわい感染症です。

○日本脳炎は蚊の吸血で感染します

日本脳炎ウイルスはコガタアカイエカによって媒介されます。蚊の唾液腺で増殖したウイルスが吸血する際に人の対内に入り込む事で感染が起こります。蚊に刺されてウイルスに感染しても発病するのは100人〜1000人に1人程度で、殆んどの人は症状が出ないでおわります。しかし、ひとたび発病して脳炎の症状が出た場合の死亡率は20〜40%に及び、生き残った場合でも45〜70%に神経障害などの症状が残ります。感染した人から新たに他の人へ感染を起こす事はありません。

○動物の日本脳炎

日本脳炎は牛、馬、豚、めん羊、山羊 水牛、しか、いのしし、犬などの哺乳類、サギ、シチメンチョウ、ツル、ガンなどの鳥類、トカゲなどのハ虫類などに感染しますが殆んどの動物は症状を示さないでおわります。馬は日本脳炎に対する感受性が高いと言われていますが、この馬においても代表的な症状である脳炎の発病率は0.3%程度です。しかし人と同様で万が一発病した場合の死亡率は約40%にも上ります。

豚も感染して発病する個体は少ないのですが、妊娠中に感染した場合は胎児に異常が表れ、流産や死産が多くなります。また他の動物と異なる点は、若くて免疫を持っていない豚の体内ではウイルスが増殖するという事です。コガタアカイエカの吸血に際して豚の体内に入ったウイルスは豚の体内で増殖してまたその豚を別の蚊が吸血する事でその別の蚊の体内にウイルスが移動。この蚊が他の動物への感染を広げるという循環をしています。豚はウイルスの増殖動物と考えられています。

犬に関しては2007年に山口大学、前田健・准教授の調査があります。これによると山口県周辺の室内犬で10%、屋外飼育の犬で38%の日本脳炎の抗体が見つかっています。抗体を持っている、という事はいつかの時点で発病はしなかったけれど日本脳炎のウィルスに感染をしたという事です。犬から蚊を媒介をして人への感染はないとされていますが私たちの身近にいるな犬への感染があったという事は私たちの身近な環境にもウイルスは珍しくなく存在していると考えられます。

また、同じ准教授の調査では和歌山県の野生イノシシにおいても83.3パーセントが日本脳炎の抗体をもつ事がわかりました。

○予防

日本脳炎ウイルスはさまざまな動物に感染し、また私たちの身近な環境や野生動物の住んでいる環境にも存在しているのでウイルスそのものを撲滅する事は困難です。媒介動物である蚊に刺されなければ感染の機会はありませんが、一部の寒冷地域を除いては、これもまたかなり難しい事です。病気を防ぐ方法として予防注射が行われてきたのはこういった理由からですが、厚生労働省は副反応の発生を理由に2005年より人における予防注射を積極的に勧奨しないとしました。そのため予防注射は一時、事実上の休止になっていますが、副反応の少ないと考えられる新型ワクチンが開発され本年2月には承認された事は大変明るいニュースです。

日本脳炎は古くからある人畜共通感染症ですが、撲滅された病気ではありません。いまなお油断をすれば牙をむいてくるはずです。アジアにあっては多くの患者の発生が報告されている中で年間の発生を10人以下(死者は0〜1人)と、流行を食い止めているのは予防注射が有効に行われているためと考えられています。

媒介動物のコガタカイエカはこれから夏に向かって多く発生してきます。この蚊は夕方から夜に活動する事が知られています。予防注射が再開されても、しっかりした免疫ができる前の子どもさんには蚊にさされないように注意することがとても大事です。

参考
感染症情報センターHP 日本脳炎

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