ジビエ(gibier)とは、食用として捕獲した野生鳥獣の肉を意味するフランス語です。
クマ、シカ、イノシシ、野ウサギなどの動物、ヤマバト、ヤマウズラ、ヤガモが挙げられます。日本では特別天然記念物であるライチョウも、フランスではジビエになります。
狩猟の盛んなヨーロッパでは、ジビエ料理が食文化として育まれ、主にフランス料理に受け継がれてきました。高級レストランだけでなく、家庭料理でも、ジビエ独特の風味や歯ごたえを楽しむ食習慣が根付いています。
日本でも、一般的に肉食が広まった明治時代以前に、狩猟や肉食の文化がありました。
秋田のマタギ猟は有名ですし、海から離れた山間部では、ツグミなどの野鳥が食べられていました。昔話の「かちかち山」では、タヌキ汁なる言葉も登場しますね。
近年、日本の中山間地域では田畑を食い荒らすシカやイノシシ、サルなどの被害が深刻になっています。また、住宅街に野生動物が出没し、住人が負傷する事件を度々耳にします。
人の住む場所に近い里山が、地域の過疎化や高齢化によって管理不足になったこと、猟師が減少したことなどで、野生動物が増え、被害を受ける地域が広がっています。
全国の野生鳥獣による農作物被害は、この数年200億円の規模で続いています。2014年度の被害額が多い順に、シカが約65億円、イノシシが約55億円、サルが約14億円と続いており、次いでクマやハクビシンなども億単位の被害をもたらしています。
政府は、平成20年2月に、「鳥獣による農林水産業等に係る被害防止のための特別措置に関する法律」を施行し、野生鳥獣被害防止のための総合的な取組みを支援しています。
侵入防止策などの施設や、鳥獣被害防止対策実施隊などの活動の他、捕獲した野生鳥獣の肉をジビエとして有効活用することも、対策のひとつとして推進しています。
かつて、農作物被害をもたらす「有害鳥獣」は、駆除のため捕獲した後、ハンターの自家消費などの限定的な利用の他は大部分が廃棄されていました。
そこで、野生鳥獣を駆除すべき悪者ではなく地域特産の「資源」と考え、食肉利用するために捕獲し、結果的に駆除につなげるという取組みが全国的に広まってきています。
埼玉県でも、秩父地域で捕獲したシカの食肉を特産品として利用する試みが行われています。
衛生的に処理し、放射線物質検査をクリアしたシカ肉を使ったみそ漬け丼が、秩父の複数の飲食店などで提供されています。
埼玉県庁の食堂でも、昨年の11月、12月に食数限定でシカみそ漬け丼が販売されましたし、浦和駅周辺でシカ肉の提供を始めた飲食店もあり、地域を離れた食肉利用が広がっています。
ジビエの消費が拡大すれば、捕獲に関わるハンターの収入も安定しますし、若い世代が狩猟に興味を持つきっかけにもなりそうです。
ジビエを美味しく、安全に食べるため、気を付けていただきたいことがあります。
野生動物は、牛や豚などの管理された家畜とは異なり、人獣共通感染症や食中毒の原因となる病原微生物、寄生虫などを持っている可能性があります。
過去に、生のまま食べたことで、腸管出血性大腸菌感染症や、トリヒナ症、肺吸虫症の原因になっています。また、野生のイノシシやシカがE型肝炎ウイルスの感染源として疑われた事例も報告されています。
これらの病原体は、通常の調理で行う加熱を行うことで、死滅させることができるため、よく火を通していれば安全です。
ジビエ料理を楽しむ際には、決して生で食べず、肉の中心まで火を通したものを召し上がってくださいね。
◎農林水産省HP「鳥獣被害対策コーナー」
http://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/
◎埼玉県HPみどり自然課「食肉処理業施設が取り扱うシカ肉の放射性物質検査結果について」http://www.pref.saitama.lg.jp/a0508/wildmeat2.html
◎厚生労働省HP「ジビエ(野生鳥獣の肉)はよく加熱して食べましょう」http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000032628.html