コリネバクテリウム・ウルセランスについて
昨年(2009年)になりますが、ノラ猫の世話をしていた女性がのどや鼻の粘膜に偽膜を伴う炎症を発症、コリネバクテリウム・ウルセランス菌による感染症と診断されました。 そして、この感染源とされたのが、この女性が世話をしていたノラ猫でした。今回はこのコリネバクテリウム・ウルセランス菌についてのお話です。
コリネバクテリウム・ウルセランスはジフテリア菌と近縁の細菌で、人に感染した場合は発熱、鼻汁などのかぜの症状やのどの粘膜に偽膜と呼ばれる白っぽい膜を形成したりします。
2001年から2009年6月までコリネバクテリウム・ウルセランス菌による人への感染例は国内で6例報告されていて、死亡例はありません。動物とのかかわりについては、冒頭の1例の女性がノラ猫の世話をしていた他、2例においてそれぞれ猫を20頭、12頭飼育していました。また他の1例においては慢性の皮膚病の犬を飼育していました。
冒頭のノラ猫の世話をしていた女性については、ノラ猫の細菌検査もなされていて、女性から分離された菌と遺伝子レベルで同一のコリネバクテリウム・ウルセランス菌が確認されています。この事から女性は世話をしていた猫から感染したと考えられています。他の報告例については飼育の事実だけしかわかっていません。
動物においての調査では、2006年12月~2007年9月にかけて大阪府の動物収容施設の犬65頭のうち4頭からコリネバクテリウム・ウルセランス菌が検出されています。
また、今回の6例目の女性の感染が猫からのものと判断されたため2009年に国内数か所の犬、猫の抑留施設での感染の実態調査が行われ結果が発表されています。
大分県での調査結果では犬63頭、猫29頭のうち、犬5頭(7.9%)
愛媛県での調査結果では犬50頭、猫51頭のうち、犬1頭(2.0%)、猫4頭(7.8%)
岡山県での調査結果では犬27頭、猫85頭のうち。猫5頭(5.9%)からコリネバクテリウム・ウルセランス菌を分離しています。
調査結果をみると地域によって差はあるものの、犬も猫も数%の率でのこの菌の保有をしている事になります。
また一般家庭で飼育されている動物では、野外活動の長い犬と猫からコリネバクテリウム・ウルセランス菌が確認されていて、これらの動物は皮膚炎やかぜのような症状が観察されています。犬や猫の皮膚炎やかぜの原因としてコリネバクテリウム・ウルセランス菌は決して一般的なものではありませんが、通常の治療で改善しない場合や、動物に引き続いて人にも呼吸器症状が出てくるような場合は、このコリネバクテリウム・ウルセランス菌の感染も気に留めておくべきです。
日常生活での予防としては、パスツレラ菌やカプノサイトファーガ菌による感染症の予防と同様、犬や猫と接する際に節度を持った接し方を守り、口移しで食物を与えるなどの過剰なスキンシップを避ける事や、手洗いの励行などが大切です。
コリネバクテリウム・ウルセランスに関するQ&A 厚生労働省