秋冬の旬のサケ、サンマ、サバやイカが美味しい季節になってきました。
ご存じのとおり、日本は、魚介類の生食を好む習慣があり、寿司、刺身、酢じめなどメニューも豊富です。脂ののったしめ鯖で一杯、なんていいですよね。
「魚は大昔から生で食べているし、夏場じゃないから食中毒も大丈夫!」
そうおっしゃるそこの貴方に、残念なお話をひとつ。
実は、魚介類の体内に、食中毒の原因となる寄生虫が生きて潜んでいる可能性があるのです。
今回は、魚介類の寄生虫アニサキスを原因とする食中毒をご紹介します。
〇アニサキスとは
回虫目アニサキス科アニサキス属に属する線虫の総称です。
成虫はクジラ、イルカなどの海産ほ乳類の腸管に寄生して卵を産みます。
卵はオキアミなどの甲殻類に捕食された後、その体内で幼虫となり、さらに中間宿主の海の魚やイカに食べられ、主に内臓に寄生します。
中間宿主は、サバ、サンマ、カツオ、イナダ(ブリ)、イカなど、日本近海で漁獲される魚介類の多くが挙げられます。
アニサキス幼虫は長さ約2~3cm、幅0.5~1mmで、白色の少し太い糸状の虫体がくるくると丸まった状態で寄生しています。
幼虫に寄生された魚やイカを人が食べると、幼虫が胃壁や腸壁に潜り込もうとし、食中毒を発症します。
○主な症状と治療法
食中毒の90%以上が胃アニサキス症となります。症状は、生の魚やイカを食べた後2~8時間後に生じる激しい腹痛と嘔吐が特徴です。
胃カメラで胃壁に食い込んだ虫体を確認し、つまんで取り除くことで速やかに症状は改善します。
○予防方法
新鮮な魚介類の場合、アニサキス幼虫の多くは内臓表面に寄生しており、筋肉への寄生は少ないため、内臓を取り除き、十分に洗浄することで感染の確率を下げることができます。
ただし、魚の鮮度が落ちると幼虫は筋肉に移動するため、確実な方法とはいえません。
アニサキス幼虫は60℃、1分以上の加熱か、長時間の冷凍によって殺すことができます。
厚生労働省は、各自治体の保健所を通じて、生食用の生鮮魚介類を扱う飲食店、販売店などに、-20℃以下24時間以上の冷凍を指導しています。
飲食店や販売店などでは、生食用鮮魚介類の取扱いをする場合、-20℃以下24時間以上の冷凍や、目視による虫体の確認などのルールを設けています。
サケ科魚類の場合は筋肉内に寄生していることが多く、冷凍処理をしていないものは生食するには危険です。
冷凍保存したサケ、マスなどの魚を凍ったまま味わう「ルイベ」は、アニサキスなどの食中毒を予防する最適な料理です。
アニサキス幼虫は、通常の調理で使用する程度の醤油、酢、塩やショウガ、ワサビ、ニンニクなどの薬味成分で殺すことはできません。
アニサキス食中毒は、たとえ1匹の幼虫の感染であっても起きる可能性があり、最も確実な予防方法は「冷凍処理を行っていない海産魚介類の生食を避けること」です。
丸のままのサンマや、冷凍処理をしていない生サケを買って、見よう見まねで刺身にすることはお控えください。
冷凍処理などをきちんと行った生食用の鮮魚介類で、旬の味覚を楽しみましょう。
厚生労働省 「アニサキス食中毒を予防しましょう」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000042953.html
農林水産省 「食中毒を起こす細菌・ウイルス・寄生虫図鑑(アニサキス)」
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/f_encyclopedia/anisakis.html
国立感染症研究所 「アニサキス症とは」
http://www.nih.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/314-anisakis-intro.html
内閣府食品安全委員会 ファクトシート「アニサキス症」
https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/factsheets_anisakidae.pdf